未婚化や晩婚化への危惧が叫ばれるようになって久しい。結婚に対する人々の意識は、厳しいものになり続けている。「結婚すると自由がなくなる」「結婚にはお金がかかる」など、不安を煽る話ばかりが聞こえてくるのだ。あるいは、「自分は結婚に向かない」「結婚できるほどしっかり者じゃない」といった、自分の適性を疑う声も少なくない。しかし、結婚というのは、それほどまでに難しいものだろうか。
本書『恋人と結婚してはいけません! しょぼ婚のすすめ』は、結婚はなるべく早めにしたほうがよいという。それは、「結婚すると信用が高まる」からであり、「人は結婚するとしっかりする」からだ。結婚というのは、それ自体が良い影響を与えるものである。だからこそ、「立派な結婚」にこだわるのはよくないのだ。満足できる相手や派手な結婚式を求めるのではなく、もっと別のところに目を向けるべきだという。
結婚のメリットを考えるうえで、まず注目すべきなのは「結婚すると信用が高まる」という多くの場面で適用される法則だ。たとえば賃貸住宅を借りようとするとき、書類には必ず「既婚か未婚か」を問う欄がある。なぜわざわざ既婚者かどうかを確認するかといえば、不動産会社が「既婚者のほうが信用できる」と考えているからだ。独身者というのはフットワークが軽い。最悪、身一つでどこへなりとも行ける。
すると、「家賃を踏み倒して逃げ出す」という結果も容易に想像できるのである。それに対して、既婚者というのはパートナーがおり、もしかすると子どももいるかもしれない。そういう人は簡単に逃げ出せないだろう。一家を支えるだけの働き口を探すのは容易ではないし、逃げようとしても人数が多ければ見つかる可能性も高い。
つまり、「結婚している以上は無茶なことはできない」と思われるわけだ。そうした場面だけではなく、人々の価値観として「結婚している」というのはプラスの印象を与える。結婚しているということは、「他人と生活を共にしている」ということであり、少なくともそうした生活を維持できる常識を持っていると判断される。古い考え方だと思う人もいるかもしれないが、実際にそうした「判定」が行われている事実がある以上、無視はできないのだ。
「結婚したからしっかりする」というのは、意外に思う人が多いだろう。結婚について考えるなかで、「もっと仕事ができるようになってから」「きちんと生活できるようになってから」と、現状を変えることから考える人も少なくない。しかし、これは逆である。「しっかり者が結婚をする」のではなく、「結婚したからしっかり者になる」のだ。
人間というのは本質的に怠け者であり、一人でいるとどうしてもいい加減な生活を送ってしまう。何でも自由にできるから、就寝時間や起床時間が適当になるし、食生活にも乱れが生じるのである。しかし、結婚して「他人」と一緒に生活するようになれば、そういう気ままな生活は続けられない。相手に対する配慮が必要であり、互いに協力するための努力も求められるだろう。そうした生活のなかで、人は「しっかり者」になっていく。それこそが、結婚の本質だという。
さらに言えば、結婚は経済面でも優位性がある。それまで別々に暮らしてきた二人が、一つ屋根の下で生活するようになれば、あらゆる面で費用が浮く。家賃や水道光熱費、食費などが抑えられるため、金銭面の余裕が生まれるのだ。「貯金ができたら結婚しよう」という人も多いが、「結婚すると貯金しやすくなる」という点にもっと目を向けるべきだろう。
本書では、結婚相手の条件としてもっとも重要なのは「一緒にいて不快にならないこと」だという。それ以外の部分は努力で改善される可能性はあるが、快不快というのは感覚的・生理的なものであり変えることは不可能だからだ。また、この考え方は結婚生活を続けるうえでのコツでもある。
つまり、「相手に不快感を与えないようにする」「不快に思わないために工夫する」という努力こそ、良い結婚生活の秘訣なのである。そのために著者が実践している方法が、この一冊には盛り込まれており、既婚者でも未婚者でも参考にできる点は多い。ただし、「独身はダメ」というわけではなく、あくまで「結婚したい人」「結婚している人」に向けられた本であることだけは念を押しておく。良きパートナーとともに素敵な人生を送りたいという人には、一度読んでみるとよいだろう。