『信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識』(著・山崎元/講談社現代新書)

『信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識』(著・山崎元/講談社現代新書)

「お金の話」というのは、あまり大きな声ではできない。特に日本では、金銭について語ることはタブー視されているところがある。そんな日本人が周りの目の憚らずにお金について話す場所が「銀行」だ。銀行員の前では、自分の預金の話や資産内容、退職金に関する情報も気にせず話してしまう。そこには、「銀行は信頼できる」という意識があるのだろう。しかし、その考えはまったく正しくない。

本書『信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識』では、銀行という場所の「信じられない真実」が明かされている。その核心とは、「銀行員は顧客の金を狙っている」という点だ。

一般的に、銀行は営利企業である。民間の銀行は何らかの方法で利益を得ることで、営業を継続できているのだ。そして、銀行の収入減は2つしかない。1つは、「利息」である。個人や企業に対して融資を行い、返済の際に手数料を取ることで利益を生み出している。2つ目が「手数料」だ。預金や金融商品の販売に関して、手数料を取ることで収入を得ているのである。そして、この手数料を支払うのは「顧客」だ。

たとえば、銀行で投資信託を購入する場合を考えてみよう。銀行で投資信託を購入すると、おおむね2%程度の販売手数料が取られる。また、投資信託による運用を続ける間、運用管理手数料として1.5%ほどを毎年支払わなければならない。仮に5000万円を投資信託に投資すると仮定すると、最初の手数料で100万円が取られ、その後も毎年75万円もの管理費が必要になる。

「投資信託の期待利益ならそのくらい安いのでは?」と思う人もいるかもしれない。たしかに、手数料以上に収益を得られれば、最終的にはプラスになる。しかし、問題はそこではない。重要なのは、「銀行以外ならもっと安い手数料で同様の投資信託を始められる」という点だ。近年では大きくシェアを伸ばしている「ネット証券」なら、手数料や管理費が数千円で投資信託を買うことができる。

一応説明しておくと、投資信託は購入する場所と商品としての価値には一切関係がない。同じ投資信託なら、証券会社で買おうと銀行で買おうと、収益性に変わりはないのだ。そうである以上、同じ投資信託を買うなら、より手数料が安いところで買うのがよい。そして、銀行は証券会社やネット証券よりも安い手数料で投資信託を販売することはほとんどない。

そもそも銀行は店頭販売している投資信託は、「窓口で営業しなければならないほど買い手がつかない商品」である。なぜなら、しっかりとした利益が出る投資信託は、投資家からの人気が高いために営業などしなくても売れるからだ。これは金融商品に限らないが、「優良な商品は勝手に売れる」のである。

こうなると不思議なのは、「どうしてそんな高い手数料を取るのか」だ。ほかの証券会社やネット証券ではもっと安い手数料で売っている投資信託が、銀行では驚くほど高い手数料で売られているのは、「銀行員が高給取りだから」である。銀行員というのは、ほかの職種と比較して給料が高い。本書では、単純な計算で時給換算を行うと「時給5000円」が銀行員の収入になるという。もし銀行員に何らかの相談を行い、30分ほどの相談に乗ってもらえば、2500円分のお金を払わなければいけない。いや、実際には銀行自体の利益も出さなければいけないから、およそ3倍の7500円の支払いが必要になるだろう。

しかし、実際には銀行に相談をしただけで、そんなお金を請求されることはない。むしろ、銀行は「無料相談」などと銘打って、タダで顧客の話を聞いてくれることさえある。本来は少なくない相談料を支払わなければ銀行員に話を聞いてもらえないはずなのに、どうして無料相談など受けつけているのか。顧客からの相談を「商品の販売」につなげるためである。

もちろん、こうした販売行為や営業行為は、銀行以外の金融機関でも行われている。証券会社や信託銀行も、取り扱っている金融商品を勧めるし、購入を決断してもらえるように顧客を口説く。ただ、証券会社や信託銀行を訪れる顧客がそうした金融機関を一定程度は警戒しているのに対し、預金口座を持つ銀行については無警戒に頼ることが多い点だ。

本書では「銀行員はお金のプロだから安心」と考えることは、恐ろしいものだという。銀行員はお金のプロだからこそ警戒するべきなのだ。お金に関する情報において、銀行員はとてつもなく優位な立場にある。預金口座のある顧客であれば、預金残高だけではなく毎月の支出から収入、退職金の金額まで把握することが可能だ。そんな相手に対して、自分の資産を預けたり投資方針を相談したりするのは危険である。まして、銀行と顧客の利益は同一ではないのだ。

顧客が銀行に預金をするのは、自分の資産を守るためである。また、投資信託などの金融商品を購入するのは、資産を増やすためだろう。しかし、銀行にとっては顧客の資産を守ることも資産を増やすことも大した意味はない。銀行にとって重要なのは、「顧客からいかに手数料を取るか」だ。そして、銀行は手数料を取りたい相手である顧客の資産や収支に関する情報を本人以上に把握している可能性がある。この危険さに気づかないまま、銀行を信頼する人があまりにも多い。だからこそ、銀行の勧められるまま投資を行い、資産を損なってしまう人が増えているのだ。

本書の著者は、数々の証券会社や保険会社に勤めてきた金融のプロである。そんな著者から見ると、銀行の勧める金融商品にはほとんどまともなものはない。そうであるにもかかわらず、銀行を頼りに投資をする人があとを絶たないのだ。すべては、「銀行は信頼できる」と思って、すべてを丸投げしようとする人が減らないからである。

本書は、決して銀行の存在を否定するものではない。しかし、銀行もまた営利企業であり、自らの利益のために行動していることを忘れるべきではないというのだ。銀行はお金のプロではあるが、必ずしも顧客の味方ではない。「客にサービスするのは当然だ」「客に損をさせる銀行などない」という思い込みは、最終的に本人が損をするだけである。

銀行には銀行の思惑があり、それを知らないまま付き合うことは危険だ。本書には、銀行がどんな目的で行動し、どういう方法で利益を狙っているかが記されている。多少難しい表現もあるが、投資に向き合おうという人なら、勉強する気持ちで読むべきだろう。また、後半部分では投資そのものに関する「一般常識」への批判もある。「お金」というのは社会のなかで生きる以上は、どうしても離れられない存在だ。だからこそ、お金に関する知識や銀行についての認識を間違えないようにする必要がある。本書はこれから改めてお金と向き合おうとする人にとって、道しるべとなる一冊だろう。